突然の新山さんの訪問からすぐ、竜ヶ峰玲王はすでに明日の服装について頭を悩ませていた。
クローゼットには、濃紺のドレスシャツにネクタイ、フレンチ・コンチネンタル風のダークスーツという取り揃えがある。
洋風であればこれで問題ないのだが、明日の結婚式は神崎家で行われるというからには間違いなく和装で挙げる結婚式だ。
結婚式・和風とくれば、礼服は袴を着て行きたい。
決意を胸に、竜ヶ峰玲王は、自室で一番信頼している仕立て屋に電話をかけていた。
---電話から1時間あまり。
仕立て屋に着いた玲王は開口一番
「おやっさん、頼む!明日の結婚式に間に合わせてくれ」
真剣な面持ちの玲王に、おやじは不敵な笑みで答える。
「おれを誰だと思ってやがる」
すぐさま体の各部の採寸をし、生地の選定、袖口のデザイン、裾幅や形状などの細やかな打ち合わせを終え、おやっさんはウインクをよ一つよこしながら奥へ消えていった。
・・・明朝、期待に胸を膨らませながら服を取りに行く玲王。
それは普通ではお目にかかれないような、見るからに生地と仕立ての違う逸品であった。
そして、普通であれば明らかに着負けする装束が、生まれ持った貴品と育ちの良さで磨き上げた竜ヶ峰玲王には馴染みすぎるほどに馴染み、典雅な雰囲気をかもし出していた。
玲王は弾むような足取りで神崎家を目指す。そんな彼の表情は、とても活き活きと輝いていた。
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