昼休みに入るとさっそく、竜ヶ峰玲王は隣に座っているスノーホワイトの勧誘にあたった。
「カクカクシカジカで剣道部に入ってくれないか、スノーホワイト」
「おk」
男らしいやつである。
あまりの即決に少々面くらったが、願っても無い展開である。
手短に礼をし、早々に入部手続きを済ました。
スノーホワイトは昨日来た転校生である。
3年の、しかも6月に転校というのは違和感を抱かざるを得ない。
が、よほどの事情があったのだろう。
家の事情に振り回されてきた彼にとって、それは同情の対象になりえてしまうものだった。
・・・それにしても、割と強引に入れてしまったが、
スノーホワイトの表情からはどうにも感情がうかがい知れない。
見た目はただの華奢な少女。
特徴的な銀に輝く髪。
硝煙を感じさせるかのような油断の無い眼差し。
玲王は本能的なレベルで認識した。
こいつは非日常を日常とする人種だと。
しかし、意識的なレベルでの認識となるのは少し先の話である。
放課後となり、意気揚々と道場に急ぐ中、神崎に呼び止められた。
「主将、ちょっとよろしいでしょうか」
真剣な面持ちの神埼のそばに、青ざめた顔の伊藤がたたずんでいる。
周りに人目がないことを確認し、神崎が事情の説明に入る。
・・・要約すると、伊藤の元にストーカーじみた手紙が毎日届いて精神的に不安定になっているから相談に乗ってほしいという。
まったくもってヤブサカでない。
竜ヶ峰玲王にとっては部員は家族同然であり、
家族に迷惑をかけるということは、自分に喧嘩を売っていることと同義である。
犯人は確実にぶっ飛ばすと心の中で誓う。
それにしても、と思う。
手紙の内容に関しては、ただの気持ちの悪い偏執めいたものということで済ますことができるが、
この魔方陣はなんだ。
これは間違いなく魔方陣だ。偶然と呼ぶには出来すぎている。
詳しいことまではわからないが、ただの妄想で描いた類のものでは決してない。
竜ヶ峰玲王の見立てでは、この手紙の送り主は根性なしである。
好きな娘に振られたか、もしくは告白できないうちにこんな偏執的な想いに替わってしまったのだろう。
わざと不安がらせるようなカウントダウン尽きの内容に、魔方陣のおまけまでついている。
その魔方陣も相手を死に至らしめるであるような効果はないであろう。
そこまでの勇気が相手にあるとは思えなかった。
竜ヶ峰玲王のそんな相手に負けることはないと考える。
決めたら即実行。ここからの竜ヶ峰玲王の行動は早かった。
練習後に神崎家で合宿を行うことを宣言。
来れるものは来い、と。
しかし、これは竜ヶ峰玲王が魔術師をほとんど知らないがゆえの蛮勇であり、
それゆえ、魔術師というもと関わるということを身をもって知ることとなった。
実は合宿である必要はまったくない。
神崎家に伊藤と自分が行けば、必要十分。
このストーカー事件は防げると考えていた。
しかし、合宿にしたのは単に己がやりたかっただけである。
さらに言えば、スノーホワイトに礼がしたかったのだ。
これが竜ヶ峰流の礼だと気づくものは一人もいない。
結局、合宿メンバーは竜ヶ峰、神崎、伊藤、スノーホワイトの4名のみとなった。
to be continued
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